キッチンのシンクの排水溝から水が逆流して来た

            

もう20年も前のお話になってしまいますが、私達家族は当時、築30年のマンションの8階に住んでおりました。

その頃から既に改築や建て替えについての話し合いが住人達の自治会でなされるほど、建物のあちらこちらに傷みや不具合が目立ちつつはあったのですが、何よりも住民たちから「最優先で直して欲しい」という要望がだされていた箇所は「水まわり」でした。

当時で既に築30年を超えるマンションの多くは、建築時に使われた排水管が現在の物に比べるとかなり細いらしく、トイレの詰まり、洗濯機の排水溝からの水の逆流はこのマンションでは日常茶飯事で、エントランス前に水のトラブル屋さんの車が停まっている様子がごく普通に見受けられました。

ある日の夕食後、私が洗い物をし終えお風呂にでも入ろうかなとしている時、突然キッチンのシンクから「ゴボッ。ゴボゴボ・・。」という何とも不気味な音が聞こえ始めたかと思うと、今度は今さっき私が食器やらフライパンやらを洗って流した汚水が、まるで地面から水が湧き出して来るかのように、かなりのスピードと量とで排水溝から戻って来たのです。このままではシンクから水が溢れて床まで水浸しになるのではないかと私は恐怖を覚えたのですが、幸いな事に水の逆流はシンクの半分の高さ程で、間もなくとまってくれました。

さあこの事態をどうしようかと考えた時、いつもエントランスの前に停まっている水のトラブル屋さんに電話を掛けて来て頂くのが普通で確実なのでしょうけれど、その手の業者さんはコストが高く、来て頂けば当時でも一回一万円は覚悟しなければなりませんでした。そこで私はシンクの中の汚水を見ながら、何とかこの事態を自力で解決する方法はないだろうかと考えました。暫くして、私はこう思いついたのです。「下からの圧力で逆流して来るのだろうから、それよりももっと強い圧力で上から押し返してはどうか。」と。

今になって考えると無謀、浅はかという言葉につきますが、この時は私も必死でしたので、次の瞬間には私の手は何のためらいも無くキッチンの水道の蛇口を最大限に開き、水の勢いを最強にして排水溝めがけて水をぶつけ続けたのです。シンクに溜まった汚水と蛇口から放たれる水とが混ざり、それはみるみる水位を増して来ます。排水溝は硬く閉じたままで、水は一滴も流れて行かないようです。その間にもシンクの水は非情に増え続け、本当にシンクから床に溢れ出しそうになってしまいました。

ところが、「やっぱり駄目か・・・。一万円か・・・。」と諦めて上から水を出すのを止めようと蛇口に手を掛けた時、再び排水溝から今度は「ボコッ、ボコボコ・・・。」という音が聞こえ始め、その次には「ギョーッ。」という音と共にもの凄い勢いで水が流れ始めたのです。

ものの30秒ほどでシンクの中の水は消え去り、排水溝からの不気味な音もその後は聞こえて来なくなりました。今までの修羅場が幻覚であったかのような静けさのなか、「圧力には圧力を」の私の論法の勝利だと、ほっとして力が抜け、暫く立ち上がれなかったのを覚えています。

それからそのマンションから引っ越すことになる3年の間、そのようなシンクの逆流は一度も起こることはなく、水のトラブル屋さんにはお世話にならずに済みました。
偶然だったのだとは思いますが、このような自己流の方法でシンクの排水溝からの逆流を解決した、皆様にはあまりお勧め出来ないお話です。

関連記事

; ?>

Add a Comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です